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裏庭のバジル 29 

 Man equals man――そのユーザー名を『人間と人間は対等である』もしくは『男と男は対等である』のどちらに訳するにせよ、そこに人類の普遍性か男同士の群像が暗に示されているものと考えるのが妥当なようだった。 それにくわえてユーザーの再生リストに並ぶ動画のうち『心理学』という一語をタイトルの一部に組み入れた動画が大半を占めており、その動画をとおして店主の自宅に対する他人の心理学的な視点を想像するのも何ら難しいことではない。 店主はしばらく物思いに黙り込んで、食卓の天板の上に視線を投げっ放しにしていた。 たとえそれが『人間』と『男』のどちらを意味していようが普段であれば取り立てて気にするようなことでもないはずなのだが、店主の置かれた状況にあって、ユーザー名に示されているその個人的な思想のほうが嫌に際立って感じられ、『Man equals man』などと、いったいどのような人物がわざわざサワムラのアカウント宛てにメッセージを送信したのかと気にもなってくるのだった。 冷やかしの意図は感じない。 ただそこには他人の心に関心を持つ者の何かしらの意図がまず間違いなく含まれている。 テレビのニュース番組に表示される赤の他人の実名と同じ程度の価値がなんとなく見出されるようでもあり――Man equals man――そしてその言葉の意味合いとしては被害者の実名ではなく加害者の実名のほうに近い。
 店主はそれとなく視野の中央にサワムラの顔を滑らせたあと、いちど食卓に落とした視線をもういちどサワムラに戻した。 店主の元妻とその再婚相手の男とのあいだに出来た子供が、ちょうどいま彼の目の前に座っている少女その本人であるはずはない。 サワムラの年頃を推定すればそれは明らかだった。 少女の顔付きを見ればそこに店主の元妻の面影など微塵も感じられず、そこにいっさい疑う余地の無いことを店主はあらためて自身の目の前に確認しながら、血縁の関わりを持たない相手に対してその一日ぶんの疑いようのない縁をだけは確かに感じてもいた。 彼は不意に自分の肩の力が程よく抜けていくことに気付いて、鼻から息をゆるく抜いた。
「なに?」と、そんな店主に微笑をやってサワムラは努めて明るい声で訊いた。
 なんだろうな、と店主は思った。
「このアカウントをしばらく私に譲ってくれないかな」と、そのあと彼は答えた。「メッセージをくれたこのユーザーと連絡と取りたい」
 それを聞いてサワムラはぐっと上体を屈めると、店主の手元からノートパソコンをひったくり、さっき自分で作成したテキスト形式のファイルにまた文字を打ち込んでいった。 四十八サイズの横書きの文字が左から右へと三段に分けて縦に並んだ。 そしてサワムラは対座する店主の顔に上目の一視を送り、パソコンの向きを変えてその画面を店主に見せた。
 “そのかわり こんや ここにとまってもいいですか?”
「君は、お母さんにどこか似てるな」と、店主は画面に打ち込まれた平仮名の羅列に目を走らせて言った。
「顔?」 と、少女は無表情に小首を傾げたが、対する店主は黙って首を振った。
 元妻の顔が店主の記憶に無い。「それより、明日の学校はどうするつもりだ?」
「仮病で休むことにしたの」
「――お母さんが “そうしなさい” って言ったんだな」
 その店主の言葉を聞いてサワムラは唇を軽く曲げたあと、明けひろげな話しぶりで口早に言った。「 “これまでのときは” 平気だったんだけど、今日はもう疲れたから動きたくない」
 サワムラの家は電車に乗って二時間ほど掛かる他県にあったが、店主はそのことを誰からも知らされていない。 それよりまず彼にはサワムラの一泊に反対を押し通す気力がいちじるしく欠けており、余計な面倒事を回避する一策としてサワムラを翌朝まで自宅に留めておくことにも何ら不都合を感じていない。 いちど天井に当てた視線をサワムラに戻して何度か頷いたあと、「良いよ」 と店主は言った。「あとで布団を持ってくる」
「お風呂も入って良い?」と、サワムラは間髪を入れずに訊いた。
「もちろん。 布団で寝るつもりなら風呂に入ってもらわないと」
 店主の言葉尻に合わせて、彼の息子がサワムラの座している椅子の後ろにショルダーバッグを見やった。「この鞄って、やっぱり、そういうことかな」
「下着もパジャマも歯ブラシもシャンプーも、とにかく全部よ」と、サワムラは店主の息子に穏やかな笑みを見せた。 そして彼女は左右の腕を自分の肩の上に大きく伸ばし、鼻にかかる声の混じった息をゆっくり吐き出し終えると、自分の着ていたダウンコートのフードの頂点を一方の手で掴んでそれをさっと後ろに脱いだ。
「ふたりとも親切な人で良かった」
 サワムラは食卓の端にそろえて置いた両手を見ながら呟くようにそう言ったあと、うつむき加減のまま媚びたような見上げる視線を真向いの店主に送った。「だけど、ほら、さっきの “お母さんが” っていうの――」そこで言葉を切って彼女は、すぐ身近にいる息子のほうをちらっと見た。「ちょっと傷付きそうね」
 店主の息子はおもむろに席を立って、少女の座る椅子の下に手を伸ばしてショルダーバッグのストラップを掴み取った。 そのバッグの底をフローリング床に引きずってリビングを出て、彼はそのまま室外の廊下を浴室へと向かった。
 緩やかな沈黙がリビングに流れた。 サワムラは椅子を後ろに引いて席を立ち、今日はありがとうございました、と言った。 浴室の引戸につづいて浴槽のふたが音を立てて開いた。
「あとで少し訊きたいことがあるんだけど、良いかな」店主は食卓の椅子に座ったままサワムラを見上げて言った。
「ログイン用のパスワード?」
「それも含めて、今日のまとめだよ」
 店主は食卓に置いてある やかん の取っ手を掴んでそれを持ち上げ、自分の湯呑に茶を注いだ。 浴槽のふたの小気味よい音が鳴ったあと、店主の息子の声が室外の廊下を響き渡った。 サワムラはリビングを出て廊下を浴室へと向かった。 店主の息子がサワムラを浴室に呼び入れて給湯パネルの操作について説明を始めた。 店主は自宅の撮影されていた動画の公開ページをブックマークに追加して、パソコンの画面を閉じたあと、やかんを片手に台所に向かった。 そしてそれをガス・コンロの火に掛けてからリビングへ足を運び、座椅子の上に置いてあったリモコンを手に取ってテレビのスイッチを入れた。 テレビの間近に置いてあった段ボール箱を手前に引き寄せて、その箱の中身に視線を落としたとき、リビング・ダイニングの出入り口に息子の声がした。
「先に寝るよ」、いつもであれば彼は段ボール箱を自室に持って戻るのだが、その夜にかぎってはサワムラの一件に意識を削がれて段ボール箱を持ち出す時機を逃していたのだった。
 店主は後ろを振り向いて「おやすみ」と言った。 息子の姿はもうそこには無かった。 店主はそれから前に向きなおって段ボール箱の中からメディアケースを数個まとめて取り出し、そしてそれらのジャケットに表記されたタイトルすべてに目を通した。 うちの一枚に『diver’s under lip』という映画作品が含まれていた。 そのタイトルを知ってはいたが、作品の内容には覚えがない。
 ジャケットの裏面の説明書きにはこう記されてある。
――水滴の入ったダイバーズ・ウォッチを父親から譲り受けた少年リック。 その腕時計の表示板には細かい水滴が多数集まって付着している。 父親のアドバイスを受けてリックはそれを時計屋に持ち込むが、店の主人からは部品の交換ではなくオーバーホールを勧められる。 その料金の高さに返事を渋るリックを見て、店主は安価な腕時計への買い替えを提案するついでに他愛のない愚痴をこぼす――「しかし今更、時計が要るかね」――時刻が空に浮かび、時計がまたひとつモノになり、そしてモノはよりひとつになる。 リックは海上に浮かぶ指針を見上げてダイバーズ・ウォッチを海に投げ入れ、その後日からは “時間を探して” 海に潜った。 秒針が音もなく空を切る。 時の象徴が海面に浮かび、針の刻みが海中にくぐもった音を小さく鳴らせた――
 店主はもういちどパッケージの表側に作品のタイトルを見返した。 そしてそのあと何ということなく別の作品のメディアケースを他方の手に取るのだが、ふと先のケースに心残りを覚えてそのジャケットの裏面に記されてあるカタカナ書きの俳優らの名前に目を凝らした。 彼は妻のセガワの旧姓を知らない。しかし、少なくともセガワの下の名前がそこに記されていないことだけは見て取った――『1964年 仏伊合作』――店主はその年号の表記を見ると、自嘲の息をみじかく吐いた。 妻のセガワどころか、店主自身もまだ当時、この世に生まれ出ていない。――何をやっているのか、と彼は馬鹿らしく思った。『館内放映用』と記された数々のケースのどれかに、妻のセガワの創作活動を追った映像が記録されてあるはずだった。 それを探し出そうとしていたところが、どういうわけか、市販の映画作品のクレジットの中にセガワの名前を探し出そうとしていたのだ。
 風呂場にはシャワーの音が鳴っていた。 店主は映画作品のメディアケースを段ボール箱の中に入れたあと、小さな掛け声に合わせて腰を上げた。 寝室の押入れの中に重ね置いてある布団を取りに行かなくてはならない。 と、そこで店主の腹がもういちど鳴った。 食卓の上には中身の入った皿がラップで閉じたまま置いてあった。 店主は台所のガスコンロに置いてある鍋の中から冷めかけの味噌汁を椀にすくい入れてそれを食卓に運び、リビングのテレビに再生させた『館内放映用』の映像を観ながら飯を食べた。
 それは確かに何かの映像だった。 広大なキャベツ畑を撮影した画像を背景にして、テレビ画面の中に一人の女が立っていた。 豊満な体つきをした長身の女だった。 胸元の開いたブラウスと丸い下腹部を覆うタイトスカートを身に付けて、何やら熱っぽく日本語で話をしている。 その女の話に合わせて、映像の下のほうに英語の字幕が出る。

『――さて。 では、あなたは芸術でしょうか。 私は芸術でしょうか。 芸術とは何かという問いを投げ掛ければ、それは人間の創造行為とその成果である、という答えが返ってくるかもしれませんが、では、あなたや私は芸術でしょうか?
 芸術の根源は人間です。 人間の作り出す芸術作品には本来であれば当人の生命活動に基づいた作品性がありとあらゆる形を取って描き出されているはずであり、そして、私たちはそれらの作品性から作者本人の目線やその世界描写、またときには作者の盲目的な生存への望みの発露などを感じ取ってそれを芸術であると定義しなおします。
 しかし私がここで申し上げたい『根源的な芸術』とは、一作品に実を結んだその描写のことではもちろんありません。
 生きる者の意識下には無形の芸術が生じています。 言い換えれば、意識下の芸術を私たち自身が作り出しているということです。 ただし、作り出すとはいっても、たったいま「意識下」と申し上げたように、本人がそれを進んで意図して作り出しているのではありません。 私たちは普段、生きることについて考える機会をそうそう持とうと思って持つわけではなく、生きていることの意義を観念に置き換えることをせずにこうしてこの場所に存在し、生命を活動させています。 つまり人は、生きることによって生を行為として体現し、その生を無意識のうちに紡いで生きているのです。
 そのように人が生を行為すること自体が、人為でありながら自然に生じた芸術であると私は考えます。
 先ほども触れましたが、作者の世界描写や、その本人の生存への望みの発露の結晶などに感動を覚えてそれを芸術と呼んでいるはずなのですから、それと同様に、芸術の根源が人間の存在そのものに端を発するという大前提のもと、生を行為するあなたもまた一個の芸術であって然るべきなのです。
 いかがお考えでしょうか? あなたは生を行為していらっしゃる。 ただ静かに眠っていながらでさえ、誰もが生を作り出している』

 女は半ば上気した表情でにこりと笑って、一方の手で自分の首元をひらひらと扇いだ。 タイトスカートの片端を手で引き上げて肉感的な腿を剥き出しにしたあと、その脚を少しだけ横に開いてから腰元に手を置いた。 そしてそれらの身振りの最後に、女は他方の手の人差し指を前に突き出して芝居じみたウィンクをした。
「おじさんも、やっぱりそういう女の人が好き?」
 店主はリモコンの一時停止ボタンを押して、サワムラの声の出どころに振り向いた。
 サラムラが寝間着の恰好で立っていた。 二本のゴムバンドを口に咥えて、長い髪をゆるく三つ編みに束ねている。「そういう体つきをしてる人とか、自信を持ってしゃべる人とか、好き?」
「嫌いじゃないね」そう答えたあと、店主はテレビに視線を戻した。「そういえば、この人、君のお母さんに似ていると思わないか?」
「そうかな」と、気の無い口調でサワムラは言った。 テレビ画面に視線を注ぎながらダイニングへ向かった。
「心と体が健康そうに見える」そう言い加えて店主は、テレビ画面の中でポーズを取ったまま静止している女に目を凝らした。
「顔のことじゃなくて?」とサワムラは訊いた。「顔のことじゃなくて」と店主は答えた。
 サワムラは食卓の椅子に掛けてあったダウンコートを羽織り、自身の上体に視線を落としてコートのジッパーを閉じると、そのあとまた店主を見やって言った。「健康な人なんだから、 ずっと一緒に暮らせば良かったのに」
 ゆっくりと一息の間を置いて店主は言った。「君がそんなことを言うと、やけに哀しくなってるな」
 それを聞いてサワムラはやや鼻白んだ思いに駆られた。 リビングのカーペットの上に重ねてある寝具を顎で指して、気兼ねのない調子を込めて彼女は言った。「その布団、私が使って良いの?」
「いいよ」
 店主はカーペットの上に置いてあった段ボール箱をテレビ台のわきに手で押し寄せて、リモコンをテレビ台の上に置いてから座椅子の背もたれを掴んでそれを持ち上げた。 ほどなくサワムラがリビングのカーペットの上に布団を敷きに掛かった。 分厚くて柔らかい敷布団だった。 乳白色で統一された布団セットをひとそろえ用意してある家庭のことが珍しく思えた。 それが誰のセンスであるかは、彼女自身の家庭をかえりみれば明らかだった。
「そのままでいいから、すこし話を聞かせてもらえないかな」と言って、店主はカーペットの端に置いた座椅子に胡坐をかいて座った。 そしてサワムラの気軽な返事を聞いたあと、いくらか語気を弱めて訊いた。「あの男の死ぬところを見たのか?」
「すこしだけね。 ほとんど耳を押さえて下を向いてたから」とサワムラは答えた。「やっぱり、人の “そういうのは” 、できればジッと見ていたくないし」
「男が庭に入ってくる前から、君はずっとあの庭の中にいたのか?」
「そうよ、って言っても、私がいたのは、この家――あなたの家の庭だけど」
 店主が押し黙ったままサワムラに視線を留めていると、サワムラのほうが視線を逸らせて言った。「だって、そうしないと、私とあの人が鉢合わせしちゃうじゃない」
 それを聞いて腑に落ちる思いがすると同時に店主は別のことで違和感を覚えた。 サワムラは男がセガワ家の裏庭でいつか自殺するのを予期して店主の自宅の裏庭に身をひそめていたのだ。 場合によって男は不本意ながら命を拾ったかもしれない。
「たしかにそうだな」 そう言って早々と話を切り上げて店主は、自殺現場を担当した警察官から聞いた話の要点をサワムラに伝えた。 セガワ家の裏庭で首を吊った男の靴先が庭の地面に着いていたため、その靴裏の草が踏みつけられて地面に倒れ込んでいたのだが、それとはまた別の場所にも同じように草を地面に押し付けたような跡が残っていたのだった。 あるいはその草の表面から服の繊維や人の指紋などが見付かるかもしれなかった。 以前から店主の息子は隣家の裏庭に立ち入ることを日頃の習慣としており、その経緯を考え合わせると、もし仮に庭内から何かの種類の繊維が見付かったとして、それが息子の着ていた服のものであったとしても不思議ではない。
 ふんふん、と、掛布団をカバーに入れながらサワムラは気軽な相づちを打った。
「もしかしたら、それはあいつじゃなくて、他の誰かが着ていた服の繊維かもしれない」と店主は言い加えた。
「私、地面になんて寝てないよ」と、サワムラは唐突にやや語気を強めて言った。
 彼女の足元にある乳白色の布団カバーを見ながら、店主は「なら安心だ」と言った。 そしてそれから彼はすでに準備してあった次の話題を切り出した。「そうだ――さっき君は “家がひとつに見える” と言ったんだ」
 サワムラは枕カバーのジッパーを閉じてから店主を振り向いた。 「たしか、そうだろ?」と店主は訊いた。
「それを私に教えたのが、あの子だったのよ」と、そう言い終えるやいなや彼女は前に向き直り、自分の手元に視線を戻して何事もないような口ぶりで続けた。「だけど、ひとつじゃなくて、ふたつあった」
 当たり前よね、と、サワムラは自嘲するように微かに笑ったが、 店主にしてみれば笑い話では済まされない。 たったいま聞いたばかりの “あの子” というのが彼自身の息子のことを指していて、自宅に関する根も葉もない話の出どころがその息子本人だった。
「あのさ」布団を敷き終えたサワムラが店主を振り返り、乾いた表情で訊いた。「私って健康に見える?」
 店主は一息を置いてから彼女の顔に目を注いだ。
「見えるよ」と言った彼自身、それとまったく同じ問いをサワムラに投げ返したい気分だった。
 よかった、とサワムラは言った。

 その翌朝、サワムラは店主の息子の登校に付き添って町内の中学校の校門まで歩いた。 校舎に向かう途中で後ろを振りかえる息子に手を振っていると、なにか自分がひとりの姉か母親にでもなったような気分になった。 良い感じだ、とサワムラは思った。 はっきりとそう思ったわけではないが、その場所からまた別の場所へ向かう時機を明らかに得たことの感覚をそのときサワムラは自覚していた。 そのまま自宅には戻らずにまた別の町へ行けそうに感じた。 ふと思い立って財布の中を確かめたところ、乗車時間にして往復一時間ぶんほどの電車賃に当てられる金額が残っていた。 その彼女の目の前を校門のゲートが閉じていった。 老いた警備員の視線には構わず、サワムラは目深にかぶったダウンコートのフードを少しだけ手で引き上げて、それから校舎の上空を上目に見やった――財布の中にある持ち金を一時的な旅気分の解消に当てるのか、それとも、この町の駅の界隈に美味そうな料理店を見付けてその食事代に当てるのか――どちらを選ぶべきかと考えて、さほどの迷いもなく飯を食べることにした。 その町中で摂る昼食を目的に、彼女はしばらく町を歩くことにした。

 後日、店主の自宅に警察からの電話があった。 セガワ家の裏庭の一部から採取した庭草の表面に、人の衣服の繊維や指紋ではなく、高濃度の糖分が検出されたとのことだった。 しかしながらその糖分に男の自殺との何らかの関係性があるとの判断には至らず、警察はそれ以上の捜査に踏み入ることをしなかった。 その検出された糖分が草の内部から噴き出たものであったことを電話口で聞き知り、のちに店主はセガワ家の裏庭の地面からむしり取った一片の草を口に入れてみるのだが、それは確かにひどく甘く、場合によって吐き出すに惜しいとも思えそうな程の味だった。 




『店主と息子とサワムラアリサ2』

konoです。
実家の畑に梅の花が咲いています。
杉花粉が飛んでいるような気がします。

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