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第45回 



―現在、地球、最中、『』、司会者―


【最中】 地球は燃えた。 なのに君は、ネオアースで目覚めた私に “夢だ” と嘘を付いた

『眠っていたんだから、夢を見たって なんら不思議じゃない』

【最中】 地球が燃える前に あらかじめ地球人たちを移住させておくために――と用意されたのが、ネオアースでしょう? この星の存在自体が、決定的と言えないにしても、地球が燃えたことの証だわ」

『まず 言わせてくれ。 君と言い合う気は無い』

【最中】 地球を燃やしたのは母なんでしょう? そのはずなのに。 司会者の “彼” は、善哉を誘拐した日、私たちに向って―― “彼が” ――つまり、君が燃やした――そう言った。 どういう意味? 君にそんな力があったなんて、私、知らなかった

『隠そうとしていたわけじゃない』

【最中】 殺人者が 「殺すつもりはなかった」 って言うのと同じね

『僕はボタンを押しただけだ。 機能的には何の意味も無いそれを、テレビ用に あらかじめ練習しておいた 三流ドラマ俳優にも劣る顔の演技を交えながら押す――指一本で、テレビゲームのコントローラーに付いているボタンを押すように。 そしたら、まばたく早さより瞬間的に、目の前が火の海と化した』





【司会者】 予定通り、地球に火が放たれた。 といっても、空から火が放射されたわけでは無いし、現実的なところで、軍が関与したという話も耳にしない。 あれは、まるでセル画のようだった。 “次の一コマ” で地上が突然、火炎色 一色となった。 人には危害が一切ないという話は本当だった。 火には温度が無かった。 にも関わらず、燃えさかる炎の中に自分がいると考えると、怖くなった。 私は、会場にいた番組観覧者――全員がそうするように、スタジオから逃げ出そうとした

【最中】 火を放ったのは 母だと聞いたわ

【司会】 局にとっては、視聴率を上げる絶好の機会だった

【最中】 たしかに、今や どこにいてもテレビを見られる時代だから、高視聴率は期待出来るだろうけど。 嘘でも良い、報道機関に身を置く者としての使命感だ――ぐらいのことを言えないの

【司会】 華々しい最後で この仕事を終えたい―― そう願って何が悪い。 高視聴率を目標に掲げて、社員全員が結束するんだ。 健全な会社の有様だろう

【最中】 私は、あなた達に正義があることを願う。    それで    火を付けたのは

【司会】 彼女だ

【最中】 先日あなたは、そうは言わなかった

【司会】 間違いなく彼女だよ

【最中】 私の仲間を犯罪者呼ばわりしたことを忘れたの?

【司会】 彼女は自分が番組に出演出来ない代わりにと、より劇的な番組作りのための演出を提案した。 執行人を募る――もちろん視聴者の中から選び出すんだが、その公募への反響が局側の予想をはるかに超えていた。 さて、ここまで話せば、もう分かるだろう? 彼と、もうひとり、若い女性が執行人に選ばれた

【最中】 ちょっと待って。 放火を阻止しようとした人がいたはずでしょう? 

【司会】 無理だよ。 火は人為的な天災――そう、自然現象の類いであって、われわれ人間に止められるものではない。  『母の涙』 と呼ばれた天災を知らないか? 20年以上前に地球に降った雨なんだが

【最中】 ………  (記憶にない)

【司会】 今回の火と同じく、あれもまた母の仕業だった。 ただ、あの時は今回と違い、大勢の犠牲者が出た

【最中】    何のため?    母は地球をもてあそんでいるの?

【司会】 地球を洗うため、と彼女は言った  【最中】 “洗う”

【司会】 彼女は ある日、地球を見渡して ふと思った――収拾の付かない事態になった、と。

【最中】 世界の情勢が混沌としている――という意味かしら

【司会】 ある日、彼女が局に来た。 一応、アピールさせて頂くが、あの特番を放送したのは我々だよ

【最中】 偉そうな顔をしないで。 スクリーンから写し出される映像が華やかに見えるのは当然でしょう

【司会】 背丈や声、物腰、彼女を取り囲む雰囲気に至るまで、人間と何ひとつ変わらなかった。 そして母が何者なのかを本人から聞かされた時、私は意外と冷静だった

【最中】 ………

【司会】 彼女は、地球に住む全ての者の記憶に その日を焼き付けるため 協力してほしい――と私たちに申し出た。 そして、局にとって有益な提案を、、それについては さっき話したかな

【最中】 地球を洗う――だなんて、よくもまぁ、そんな話を鵜呑みにしたものね

【司会】 いんちきでないことは明らかだった。 後日、テレビ局内の鉢およびプランターに植えられていた植物、それに局の域内に立っていた並木などが根毛の一本も残さずに消えた。 彼女が能力を実演して見せたんだ

【最中】 テレビ局から人気が失せた頃に、こっそり 一生懸命 掘り出したんじゃない

【司会】 夜中に根毛の一本も残さずに掘り出せると思うか?

【最中】 どうかしらね



【司会】 君、地球で見ただろう?

【最中】 見たかな

【司会】 火の日の宣伝活動だった。 私がナレーションを担当したテレビコマーシャルなんだが

【最中】 “ありがとう、さようなら”

【司会】 私の声だ

【最中】 内容を追うごとに 不快な宣伝へと化した

【司会】 なるべく多くの人に移住を促すためだ

【最中】 母の血…   【司会】 なに?

【最中】 なんでもない。 (母の血に被害が及ぶのを極力避けるための宣伝、、、いや、 基本的に 母の血は、自分が それ である事を知らないから、、だとしても、宣伝の意味がまるで無いわけじゃない)」





【最中】 彼が言ったわ。 あの日、撮影スタジオから逃げ出そうとしたんだって、彼。 それで、舞台上でゲストの一人が燃えているのを見て、とても心苦しかった――って」

『 “ゲスト” 』

【最中】 シラを切らないで。 ゲストは君と私。  そして火を食らったのが、私

『………』

【最中】 もともと私には名前が無かった、そして、君にも。 ダストの学校で知り合った母の血から教わったよ、私が人間とは異なる生命体だということ

『だけど、君はもう母の血じゃない。 おなじく、僕も』

【最中】   やっぱり、君も母の血だったんだ。 同じ名無しでも、シビトは体が透けているらしいから

『シビトに名前がないだなんて、聞いたことがないけど………そうだな、見てのとおり、僕には ちゃんと体がある』

【最中】 すでに母の血から除外されていたから、だから あの時、君は炎の影響を受けなかった

『ある夏の終わり、僕のもとに見知らぬガキがやって来て、僕を 兄さん と呼んだ。 弟なんて 僕には いなかったのに。  続けて彼は こう言った――『僕たち、似ていると思いませんか?』。  けど、その時は まだ、その言葉の意味が僕には分からなかった』

【最中】 あそこは他人同士が同居する家だから。  私は、新しく入った家族の一員として あの子を見ていた。 君の弟だと言われれば……疑う余地がない。 顔が似ているからな

『彼は僕の血から生まれた』

【最中】 マガイモノか  『長芋………』

【最中】 マガイモノは、母の血が流した血液から生まれる。  さては君、海に血を流したでしょう?

『ルールが厳しいんだよ。 擦り傷やペン先で引っかいた傷口から少量の血がにじみ出ただけでも、血統から外されるらしい』

【最中】 母の血については、どこで?」

『地球にいた時、変な奴と出会っただろ? 僕に “輪ゴムでズボンの裾を絞れ” と言った奴のこと、覚えていないか? 彼は僕を呼び止めて色々と話した。 そして彼は君の後ろ姿を見ながら “珍しい” って言った』

【最中】 珍しい?

『君が無傷であることが――だ。 考えてみろ。 君や僕の歳に至るまでの歳月を 血を全く流さないで過ごすことが普通、可能か? そうだとしたら、なんて “箱入り” だよ。 箱入り――君のことだぞ? そう、それと彼は、君を事故から守れとも言った。 結果的に、守れなかったけど』

【最中】 どおりで。 私には 母の血としての記憶が無い

『………』

【最中】   私、ダストの人たちに “焦げ臭い” って言われた

『そうか』  【最中】 笑いごとじゃないのよ

『………』

【最中】 それで    誰の顔なの

『それにしても、“焦げ臭い” だなんて、失礼なことを言う奴だな』


【最中】 私の、この顔、誰の顔?